11月15日から狩猟シーズンに入り、エスポワールの真骨頂といえるジビエ料理が数多くメニューに加わります。
野鳥類では、真鴨・キジ・山鳩、四足と言われる鹿・猪・熊などを食材として調理します。
珍しいものでは、バン・アナグマ・田シギ・山シギなども扱います。
フランス料理の代表的な食材と言えば、鳩が挙げられます。中でも野生の鳩というとフランスでは、
森鳩(パロンブ)と言われる鳩が有名で、特にピレネー山脈の麓にいるものが美味とされています。
エスポワールでは、長野県高遠町産の山鳩を調理しています。山鳩は何種類かのお料理でご紹介していますが、
中でもパイ包みは不動の山鳩料理として多くのお客様にもお楽しみ頂いています。そのようなジビエ料理とワインは
切っても切り離せないものと言われていますが、どのようなワインが良いのでしょうか?
今回はクラシカルな料理ということで、ワインもクラシカルな2種と比較マリアージュしてみたいと思います。
まず料理は、山鳩の胸肉をフォン・ド・ジビエ(狩猟動物からとる出し汁)に漬け込み、より旨味を染み込ませます。
そこにフォアグラ・トリュフ・里芋のピュレとさらに、丸ごと1羽調理する時の醍醐味の内臓を加えると、パイ生地の中で
風味が強調され、ナイフでパイ包みを切った瞬間に、その香りが立ち昇ります。
そしてそのソースは、フォン・ド・ジビエに内臓の旨味を加え煮詰めたもので、その色は濃く艶があり、覗き込むと顔が
写る程です、何層にも味が重なり、球体のようにバランスのよいソースに仕上がります。
ワインは、フランスでも偉大な産地と言われるボルドーとブルゴーニュです。ただ、そのスタイルは対照的で、
飲む人にとってはどちらを合わせようかというのは非常に悩みの種です。(楽しみの種でもありますが・・・)
今回は、熟成によりジビエと相性が期待できる『86年シャトー・モンブスケ(ボルドー・サンテミリオン)』と
『83年クロ・ド・ヴージョ(ジャン・グリヴォー)』です。
まず86年シャトー・モンブスケは、80年代まではしなやかなスタイルでメルローが中心の為、熟成したものは
乾燥させたスパイスや木の香りが中心で、タンニンも柔らかいです。
83年のクロ・ド・ヴージョは、それまで平凡な評価をされていましたが、この83年から栽培法・醸造法を変えた事に
よって、コクのあるワインが出来るようになりました。ポートワイン・ドライフルーツ・オレンジピールの香りが
感じられ、とても良い熟成をしています。どちらも印象としては、酸・タンニンより果実のコクや滑らかさ・熟成感が
中心の良いワインです。
山鳩との相性は、ボルドーはパイ生地の中に加えたフォン・ド・ジビエの風味をたっぷり含んだ胸肉にとても
うまく調和します。山鳩の適度な鉄分とモンブスケのまろやかさが打ち消し合い、その中にほのかに残るワインの
ドライハーブの香りが印象に残ります。上品な香りのマリアージュです。
クロ・ド・ヴージョはどうでしょう。
同じ熟成ワインでも、タイプが違います。ボルドーのようなスパイスやドライハーブの香りはなく、さらに軽やかで
紅茶のような香りがあります。旨味と香りを吸ったパイ生地をお供にした山鳩は、口の中でワインの風味と混ざり合って
よりまろやかなお料理を食べているように感じます。
2種を味わってみて、私の印象はどちらも『素晴らしい』でした。
頭の中でのイメージのマリアージュより、実際に味わったものは遥かに素晴らしく、その感覚は味わってみて
初めてわかります。
どちらのワインも、違ったアプローチで料理とのマリアージュ(結婚)が成立しています。
よく野鳥にはブルゴーニュが良いと書かれていることがあります。確かに今回もその相性は素晴らしかったのですが、
ボルドーにはブルゴーニュとの相性にはなかった香りや舌への感覚がありました。皆様にお伝えしたいのは、
型にはまることなくマリアージュを楽しんでいただきたいという事です。クラシカルな合わせ方やチャレンジしてみたい
合わせ方など、体験すると様々な発見と楽しさがあります。私も普段からサービスマンの立場で心がけるのは、
自分自身が愉しむ事の達人になることです。そうすれば、お客様に愉しんでいただくことのご提案が出来ます。もし、
ワイン選びに迷われた時は、お気軽にお声掛け下さい。わかる範囲で愉しむ為のアドバイスをさせて頂きます。