2015.04.01

vol.21 ジビエの王様ベカスと信州ワイン

今回ご紹介するマリアージュは、ジビエの王様『ベカス(ヤマシギ)』と『サントリー塩尻ワイナリー 03年信州メルロー』です。
ベカスはリエーヴル(野うさぎ)とならんでジビエの中では希少性が高く、最高峰の食材のひとつです。
ベカスは、国内にも生息しており、極少数ではありますが、入荷もします。出会うことも少ない上、その独特の飛び方から仕留めることは至難の技です。
エスポワールのある、諏訪、茅野エリアでは、ベカシーヌ(タシギ)と呼ばれるベカスよりふたまわりほど小さな野鳥の方が仕留められることが多いです。(それでも少数ですが)
ベカスの伝統的な調理としては、内臓付きでのローストが基本です。その個性的な風味を身の部分に移すためです。
ローストした後の内臓を掻き出し、フォアグラと共にペーストにし、バケットに塗り、焼いた物を付け合わせにします。
ソースはエスポワールではフォンドジビエを煮詰め、骨と内臓をペーストにした物と一緒に煮込み、ベカス風味のソースをつくります。盛り付ける際に半分に割られた口ばしは最高のジビエの一皿に相応しい風格を感じさせます。
味わいは特徴的な香りがあり、よくアンチョビに例えられ、お肉なのに魚の香りがすると感想を言われていくお客様も多いです。
この王道料理に合わせるワインは日本で作られたもので、長野県塩尻市にあるサントリー塩尻ワイナリーの03年信州メルローです。私の出身地でもある塩尻市は、近年特に良質のワインが造られることでも知られています。
国産のワインで購入できる物の多くは、新しいヴィンテージです。そういった点でも、熟成した国産ワインを味わったという方はラッキーではないかと思います。今回のワインは05年に開催された愛地球博の長野県ブースで、シェフの藤木が信州産食材を使ったフランス料理を提供した際に一緒に出されたワインです。その当時の記憶では、ワインは
若々しく、オーク樽のロースト香が中心となり、スパイスの香りとメルローのまだ若さを感じる青々したハーブを連想させる香りが印象に残る味でした。10年の年月を経た物は、落ち着いた印象になっており、ドライハーブ、乾燥した樹皮の香り、ドライフルーツの甘いフレーバーと隠れていたボリュームがはっきりしていました。バランスのとれたタンニンがワインに奥行きを与えているように感じます。
ジビエの王様と言われるベカスに信州ワインというと、ワインの味が消えてしまうのでは?と思われる方もいるかも知れませんが、年月によって複雑さを兼ね備えたワインは重厚なソースにうまく混ざり合い、一体感を感じさせてくれます。同じベカスに若い信州メルローを合わせるとベカスの持つ特徴的な魚系の香りが際立ってしまい違和感を感じます。日本のワインも熟成し複雑さを兼ね備えたものは、海外の名だたるワインにも引けを取らず、食材との相性も十分に楽しめるものだと実感しました。ただし熟成を待つ忍耐力が必要です(笑)

ソムリエ 野村 秀也

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